デザインで見る小田原の魅力：地元印刷会社のビジュアルストーリー

はじめに――「小田原ってお城と蒲鉾だけ？」

「小田原といえば？」と聞かれると、小田原城やかまぼこ、みかんを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、地元で暮らす私たちでさえ気づいていない魅力はまだまだあります。本稿では印刷・デザインに携わる立場から、写真や紙面に落とし込むと見えてくる“小田原の新しい表情”をご紹介します。観光パンフレットには載っていない風景や、画像だけでは伝わらない空気感を言葉とビジュアルの両面でお届けしますので、ぜひ旅のヒントにお役立てください。

1. 「え、ここも小田原？」デザインが切り取る再発見スポット

小田原城の天守閣や有名商店街から一歩外に出ると、路地の石畳や江戸期の商家がひっそり残っています。私たちはこれらの風景を光と影のコントラストでポスター化し、SNSで発信してきました。すると、地元の方から「いつも通る道なのに、こんなに趣があるとは気づかなかった」という声が多数寄せられました。観光ガイドに載らない裏通りこそ、一枚の写真や印刷物にすると“絵”になるのです。

もうひとつのおすすめは早川漁港です。漁師さんが動き出す夜明け前、群青からオレンジに変わる空と海、その間を行き交う漁船という構図は、モダンな誌面レイアウトにも映えます。「働く港」を「見せる港」へ切り替えるのはアングル次第だと実感します。

そして忘れてはならないのが箱根山系から流れ出る清流です。市内に点在する湧水スポットを巡り、水面がきらめく瞬間を抽象パターンで表現すると、紙面全体に“涼”が宿ります。これらのビジュアルは地元飲食店のポスターにも採用され、来店客の散策意欲を高めているようです。

2. デザイナーが本気で撮った！小田原の隠れ絶景

小田原には大型観光施設とは異なる“小さな絶景”が散在しています。たとえば久野丘陵の高台。ここから望む相模湾は、手前に里山、奥に海という重層構図で、季節と時間帯によって色調が激しく変化します。私たちはこのグラデーションをレイヤー構造のグラフィックで再現し、カレンダーに落とし込みました。

小田原城の撮影といえば定番の正面ですが、天守を背にして城下町を俯瞰すると、歴史と現代都市が交差するユニークな風景に出会えます。幾何学的な街路と石垣を組み合わせたポスターは、企業カレンダーのメインビジュアルとして好評でした。

また、曽我梅林の霧景色は早朝限定の“ごほうびショット”です。薄霞の中に浮かぶ梅は、写真をオーバープリントで重ねると幻想的な冊子表紙になります。駅構内ギャラリーで展示したところ、「同じ場所に行ったのにこんな風に見えなかった」という感想が多く寄せられ、視点の大切さを再確認しました。

3. 印刷のプロ直伝！SNS映えする小田原フォトガイド

ここでは色彩バランスに注目した撮影ポイントをお伝えします。

• 小田原城と桜・紅葉…お堀の水面を前景に入れ、青×ピンク（または赤）×白の対比を強調するとドラマティックです。
• 早川漁港の富士見スポット…船影をシルエットにして背景に富士山。夜明けは露出を-1EVに下げ、漁灯をアクセントに。
• 箱根登山鉄道 小田原駅…レトロ車両のカラーリングと駅舎のベージュを生かし、昼間は影を深めに撮るとノスタルジックになります。
• 伝統工芸の工房…職人の手元をF2.8 で寄り、木目・漆・和紙など質感を際立たせます。ストロボより自然光がベター。

ポイントは「小田原ブルー」と呼ばれる海の深い青と、城下町の木材・瓦のアーストーンを掛け合わせることです。この色相環の対比は、フィルター加工なしでも映えるため、印刷物でも発色が良く仕上がります。

4. 写真だけでは伝わらない“空気”をデザインで補う

私たちはチラシや冊子を制作する際、人と人のあたたかさや季節感を余白や活字で表現しています。たとえば春のイベント告知では、桜の花びらをモチーフにするだけでなく、霞がかった淡いグラデーションを紙全体に敷いて「香りまで感じそう」と言われる誌面を目指します。

取材先の商店や職人さんからは「こんなに細部を観察してくれたのは初めて」と驚かれることもあります。地元に根差す印刷会社として、写真では写り切らない“手ざわり”を紙面で再現するのが私たちの使命です。

5. 伝統と現代をつなぐデザインの力

小田原には寄木細工や提灯など多彩な伝統工芸があります。これらのモチーフをロゴやパッケージに応用すると、「古さ」ではなく「物語」として機能し始めます。実際、寄木柄を組み合わせたショップカードを制作した際、来店客が「カードをコレクションしたくなる」と言って複数枚持ち帰るケースが続出しました。

また、地元食品のパッケージをリニューアルする際は、蒲鉾板のフォルムや城の鯱瓦など、一目で“小田原らしい”と分かるシルエットを挿し込むと、SNSでの拡散力が上がります。伝統素材の再編集は、ブランディングだけでなく地場産業のストーリーテリングとしても有効です。

おわりに――デザインで旅はもっと深くなる

私たち印刷・デザインの現場にいる者は、「小田原の日常」を「訪れてみたくなる非日常」へ変換するお手伝いをしています。
ほんの少し視点を変え、色と余白に気を配るだけで、見慣れた景色が宝物に変わる瞬間があります。

次に小田原を歩くときは、路地の石畳や漁港の日の出、職人の手元、山と海が交差する稜線に注目してみてください。
そして、その感動を写真や言葉に乗せて発信してみてください。
あなたの一枚が、誰かの旅のきっかけになり、やがて小田原の新しい物語を生むかもしれません。

※本記事は2025年6月時点の公開資料および現地取材を基に構成しています。掲載した撮影ポイントは立入禁止区域や私有地を含まないことを確認済みですが、訪問時は最新の情報をご確認ください。